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自社株評価はこう決まる|中小企業経営者が今から始める株価の下げ方と相続対策

自社株評価はこう決まる|中小企業経営者が今から始める株価の下げ方と相続対策

「決算対策としての節税は毎年やっている。でも、10年後・20年後を見据えた対策となると、何から手をつけていいかわからない」——中小企業の経営者の方から、弊所が最もよくいただくご相談のひとつです。

単年度の節税と、長期目線の節税は、実はまったく別ものです。長期目線の節税の主戦場は、法人税ではなく相続税であり、その最大のターゲットが自社株(取引相場のない株式)の評価額です。

この記事では、①なぜ自社株が問題になるのか、②自社株の評価額はどう決まるのか、③評価額を下げる具体的な方法、④株価対策とあわせて考えたい相続対策、を税理士の視点から順に解説します。

なぜ「自社株」が中小企業の相続で最大の問題になるのか

相続税は、亡くなった方が持っていた財産の「時価」に対してかかります(相続税法第22条)。ここでいう財産には、当然ながら経営者が保有する自社の株式も含まれます。

問題は、非上場会社の株式が次の3つの性質を同時に持っていることです。

  • 評価額が想像以上に大きい。会社が長年黒字を積み上げてきた場合、その利益剰余金がそのまま株価に反映されます
  • 売れない。上場株と違い、市場がないため換金できません
  • 分けにくい。後継者に集中させないと経営が不安定になるため、他の相続人との公平性の問題が生じます

つまり「多額の相続税がかかるのに、その税金を払う原資にはならない財産」という、厄介な資産なのです。会社を継ぐ後継者が、相続税を払うために自宅を売る、といった事態は決して珍しくありません。

だからこそ、対策は「相続が起きてから」ではなく「今から」始める必要があります。株価を下げる施策は、いずれも効果が出るまでに時間がかかるからです。

自社株の評価はこう決まる(1)まず「誰が取得するか」と「会社の規模」

非上場株式の評価方法は、財産評価基本通達という国税庁のルールで細かく定められています。全体像は、次の2段階で決まると考えるとわかりやすいです。

ステップ1:取得する人によって方式が変わる

株式を取得する人評価方式評価額の水準
経営者一族(同族株主)原則的評価方式(財産評価基本通達178・179)高い
同族株主以外(少数株主・従業員持株会など)特例的評価方式=配当還元方式(同通達188・188-2)低い

同じ会社の同じ1株でも、経営権を持つ人が取得するのか、配当をもらうだけの少数株主が取得するのかで、評価額は大きく変わります。経営者ご本人が保有する株式は、当然ながら高いほうの「原則的評価方式」です。

ステップ2:会社の規模で計算式が変わる

原則的評価方式では、会社を「大会社・中会社・小会社」に区分します。区分は①従業員数、②総資産価額(帳簿価額)、③直前期末以前1年間の取引金額(売上高)の3つで判定します(同通達178)。

規模区分判定の目安(卸売業・小売サービス業以外の場合)評価方法(同通達179)
大会社従業員70人以上、または総資産15億円以上(従業員35人超)・売上15億円以上類似業種比準価額(純資産価額の選択も可)
中会社従業員70人未満で、総資産5,000万円以上(従業員5人超)・売上8,000万円以上15億円未満類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L) L=0.90/0.75/0.60
小会社従業員70人未満で、総資産5,000万円未満または従業員5人以下、かつ売上8,000万円未満純資産価額(L=0.50として併用も可)

※ 卸売業・小売サービス業では基準金額が異なります。実際の判定はもう少し複雑ですので、詳細は財産評価基本通達178をご確認いただくか、弊所までお問い合わせください。

「規模区分が大きいほど株価が下がりやすい」のはなぜか

ここで押さえていただきたいのは、会社の規模区分が大きいほど株価は下がりやすくなる、という関係です。理由は上の表の「評価方法」の欄にあります。

原則的評価方式には「類似業種比準価額」と「純資産価額」の2つの計算方法があり、大会社は原則として類似業種比準価額、小会社は原則として純資産価額を使い、中会社はその2つをLという割合で組み合わせて計算します。この組み合わせの割合が、規模区分が大きい会社ほど類似業種比準価額寄りになるのです。

そして、利益を積み上げてきた会社や含み益のある不動産を持つ会社では、純資産価額のほうが類似業種比準価額より高く算出されることが多くなります。その結果、「規模区分が大きい会社ほど株価が低く出やすい」ということになります。これが、後述する株価引下げ策のひとつにつながります。

自社株の評価はこう決まる(2)2つの計算式の中身

類似業種比準価額:上場企業と比べる方法

同じ業種の上場企業の株価を基準に、自社と比較して評価する方法です(同通達180)。比較するのは次の3つの要素です。

  • 1株当たりの配当金額
  • 1株当たりの利益金額
  • 1株当たりの純資産価額(帳簿価額ベース)

この3要素を上場企業の平均と比べた比率をもとに株価を算出し、最後に斟酌率を掛けます。斟酌率は大会社0.7/中会社0.6/小会社0.5と定められています(同通達180(2))。非上場株式は上場株式より流動性が低いことなどを考慮した割引で、小さい会社ほど評価額は低く、有利に計算されます。

経営者として押さえたいのは、利益と配当を抑えると、この計算式による株価は下がるという点です。

純資産価額:会社を今解散したらいくら残るか

会社の資産をすべて相続税評価額で洗い替え、負債を引いた「正味の財産」で評価する方法です(同通達185)。帳簿ではなく時価ベースで計算するため、含み益のある不動産や有価証券を持っていると評価額が跳ね上がります。

ただし、含み益(評価差額)については、それを実現した場合にかかる法人税等に相当する金額を控除できます。この控除率は、令和8年の通達改正により従来の37%から38%に引き上げられました(同通達186-2。防衛特別法人税の創設等を反映したもので、法人税・地方法人税・防衛特別法人税・事業税・住民税の税率合計に相当する割合とされています)。

整理:何が株価を押し上げているのか

株価を押し上げる要因影響する計算式
毎期の利益が大きい類似業種比準価額(利益の要素)
配当を多く出している類似業種比準価額(配当の要素)
利益剰余金が厚く積み上がっている類似業種比準価額(純資産の要素)・純資産価額
含み益のある不動産・有価証券を持っている純資産価額
会社規模が小さい(小会社区分)純資産価額の比重が高くなる

自社株の評価額を下げる5つの王道

仕組みがわかれば、打ち手も見えてきます。いずれも税法上の根拠が明確な、正攻法の方法です。

対策①:役員退職金を支給する(最も効果が大きい)

株価引下げ策として、効果とタイミングの両面で最も優れているのが役員退職金です。理由は3つあります。

  • 多額の損金が一度に計上されるため、類似業種比準価額の「利益」の要素が大きく下がる
  • 支給により純資産が減るため、純資産価額も下がる
  • 受け取る側(引退する経営者)にとっても、退職所得は税負担が軽い

注意点は「不相当に高額な部分」は損金にならないことです(法人税法第34条第2項)。適正額は、その役員の在職期間、退職の事情、同業・同規模法人の支給状況等に照らして判断されると定められています(法人税法施行令第70条第2号)。実務では「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で算定することが一般的ですが、この算定根拠を株主総会議事録や退職金規程で残しておくことが重要です。

そして最大のポイントは、株価が下がったこのタイミングで後継者へ株式を移転することです。退職金の支給と株式の贈与をセットで設計してはじめて、対策として完成します。

対策②:含み損のある資産・不良資産を整理する

塩漬けになっている土地、回収見込みのない売掛金、稼働していない機械。これらを売却・除却・貸倒処理して損失を実現すれば、利益と純資産の両方が減り、株価が下がります。

「含み損があるのに帳簿に載ったまま」の資産は、株価を下げる余地がそのまま眠っている状態です。決算書の資産の部を一度棚卸ししてみることをおすすめします。

対策③:配当政策を見直す

類似業種比準価額は配当金額を要素のひとつとしています(同通達180)。同族会社では、そもそも配当を出さずに役員報酬で還元しているケースが多いのですが、毎期きちんと配当している会社ほど株価は高くなるという関係にあります。

配当は税務上も損金になりませんので、株価対策・法人税対策の両面から、役員報酬とのバランスを見直す価値があります。役員報酬と配当の使い分けについては、こちらの記事もあわせてご覧ください:役員報酬と配当、結局どちらが得?

対策④:会社規模区分の引上げを狙う

前述のとおり、会社規模区分が大きいほど、株価が低く出やすい類似業種比準価額の比重が高まります(同通達179)。とくに含み益の大きい不動産を持つ会社では、純資産価額の比重を下げられるかどうかが決定的です。

区分は従業員数・総資産・売上高で決まりますので、従業員数を基準ライン以上にする、事業拡大やM&Aで売上規模を上げるといった経営判断が、そのまま株価対策になります。ただし、これは節税のためだけに行うものではなく、あくまで本業の成長戦略と一致する範囲で検討すべきものです。

対策⑤:持株会社(ホールディングス)化する

後継者が出資して設立した持株会社に、現経営者が持つ事業会社の株式を買い取らせる方法です。設立費用や買取資金の調達、その後の申告・管理コストまで含めると負担が大きく、決して一般的な手法ではありませんが、効果が大きいためご紹介します。メリットは大きく3つあります。

1つ目は、将来の値上がり分が後継者側に溜まっていくことです。買取り後に事業会社が利益を上げて価値が増えても、その増加分は持株会社、つまり後継者の会社の中に蓄積されます。現経営者の手元にあるのは売却で受け取った現金だけですので、以後どれだけ会社が成長しても、現経営者の相続財産はその分では増えません。相続財産の額に、この時点で上限をかけられるということです。

2つ目は、現経営者に売却代金という現金が入ることです。この現金は、相続税の納税資金にも、後継者以外の相続人へ渡す財産にも充てられます。

3つ目は、事業会社から持株会社への配当が、持株割合100%(完全子法人株式等)であれば全額益金不算入となり、法人税がかからないことです(法人税法第23条第1項)。グループ内で資金を動かしやすくなります。

なお、現経営者が受け取る売却代金には譲渡所得税がかかります。税率は合計20.315%です(所得税15%は租税特別措置法第37条の10第1項。これに復興特別所得税と住民税5%が加わります)。納税資金として見込める金額は、売却代金の約8割とお考えください。

ただし、持株会社化には見落としやすい落とし穴があります。以下の「特定の評価会社」に該当すると、原則として会社規模にかかわらず純資産価額で評価しなければならなくなりますので(同通達189・189-3)、対策のつもりが逆効果になりかねないため、注意が必要です。

特定の評価会社の区分該当する条件
株式等保有特定会社総資産(相続税評価額)のうち株式等の割合が50%以上
土地保有特定会社土地等の割合が、大会社は70%以上、中会社は90%以上
開業後3年未満の会社等開業後3年未満、または配当・利益・簿価純資産がいずれも0
比準要素数1の会社配当・利益・簿価純資産の3要素のうちいずれか2つが0で、かつ直前々期末を基準にしても2つ以上が0

なお、これらの判定にあたっては、課税時期の直前に合理的な理由なく資産構成を変動させ、該当を免れようとしたと認められる場合、その変動はなかったものとして判定されると明記されています(同通達189)。直前の駆け込み対策は通用しない、ということです。

株価対策とあわせて考えたい、経営者の相続対策

株価を下げる対策は、それだけでは完成しません。下げた株をどう移すか、移したあとに何が起きるかまで設計して、はじめて対策になります。ここからは、自社株の評価そのもの以外に、会社経営者が押さえておきたい相続対策を4つご紹介します。

柱①:相続時精算課税で「安い株価」を固定する

60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫(推定相続人である直系卑属)への贈与について選択できる制度です(相続税法第21条の9第1項)。自社株の承継と最も相性がよいのが、この制度です。

理由は、相続のときに相続財産へ加算される金額が、相続時の評価額ではなく、贈与したときの評価額だからです(相続税法第21条の15第1項)。役員退職金の支給などで株価が大きく下がった期に、まとめて後継者へ贈与しておけば、その安い評価額のまま固定できます。

逆に言えば、今後さらに成長して株価が上がる見込みの会社ほど、この制度の効果は大きくなります。

項目内容根拠
特別控除累計2,500万円まで贈与税がかからない相続税法第21条の12
相続時の加算額加算されるのは贈与したときの評価額。その後値上がりしても加算額は増えない相続税法第21条の15第1項
撤回の可否選択の届出書は撤回できず、その贈与者からの贈与について暦年課税には戻れない相続税法第21条の9第6項・第21条の11

表の3行目のとおり、一度選択すると元には戻せません。株価が今後どう動きそうか、他の財産をどう渡すかまで含めて、慎重にご判断ください。

柱②:暦年贈与でコツコツ移す

贈与税には年間110万円の基礎控除があります(租税特別措置法第70条の2の4)。株価を下げたタイミングで、毎年少しずつ後継者へ株式を移していく王道の手法です。

ただし注意点があります。相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されます(相続税法第19条第1項)。このうち、相続開始前3年より前(4年目から7年目)の贈与については、その合計額から100万円を控除した残額が加算対象となります。

つまり暦年贈与は「早く始めた人ほど有利」な制度です。長期目線の対策と申し上げている理由がここにあります。

柱③:遺留分と遺言で「争族」を防ぐ

後継者に自社株を集中させると、他の相続人の取り分が少なくなります。ここで問題になるのが遺留分です。兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分として、遺留分を算定するための財産の価額に、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1を乗じた額が保障されています(民法第1042条第1項)。

自社株の評価額が大きいと、後継者が受け取る財産も大きくなり、他の相続人から遺留分侵害額を金銭で請求される可能性があります。対策としては、次のような組み合わせが考えられます。

  • 後継者以外の相続人には、生命保険金や不動産など株式以外の財産を確保しておく
  • 遺言書を作成し、分け方の意思と理由を明確にしておく
  • 株価を下げる対策そのものが、遺留分の金額を抑えることにもつながる

柱④:納税資金を用意する

相続税は原則として現金一括納付です。自社株は売れないため、納税資金の手当てを別途しておかないと、対策は完成しません。主な手段は次のとおりです。

手段ポイント根拠
生命保険金法定相続人が受け取る保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税相続税法第12条第1項第6号
死亡退職金同じく「500万円×法定相続人の数」まで非課税。会社側では損金にもなる相続税法第12条第1項第7号
相続した自社株を会社に売却(金庫株)通常は配当課税となるところ、相続税の申告期限の翌日以後3年以内の譲渡であれば、みなし配当課税とならず譲渡所得課税で済む特例がある租税特別措置法第9条の7
取得費加算の特例上記期間内に売却する場合、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算でき、譲渡所得税が軽減される租税特別措置法第39条第1項

とくに「金庫株と取得費加算」の組み合わせは、自社株の納税資金対策として有効です。ただし、いずれも相続税の申告期限の翌日以後3年以内という期間制限がありますので、相続発生後は速やかな判断が必要になります。相続税の基本的な仕組みについては、知っておきたい相続税の基本もあわせてご覧ください。

補足:事業承継税制という選択肢

ここまでは、事業承継税制を使わない前提での対策をご紹介してきました。最後に、この制度についても簡単に触れておきます。

事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予)は、要件を満たせば自社株にかかる贈与税・相続税の納税が猶予される制度です。とくに特例措置は対象となる株式数や猶予割合の点で手厚く、うまく使えれば非常に強力です。

一方で、あくまで「猶予」であって免除ではないこと、都道府県や税務署への報告・届出を長期間続ける必要があること、要件を満たさなくなった場合には猶予されていた税金に利子税を加えて納付することになることなど、留意点も多い制度です。この記事でご紹介した対策と、どちらが自社に合うかは慎重に比較する必要があります。

また、特例措置には期限があります。特例承継計画を令和9年9月30日までに都道府県へ提出したうえで、令和9年12月31日までの贈与・相続が対象です(租税特別措置法第70条の7の5第1項等)。制度の詳細は、事業承継税制(特例措置)の要件・効果・注意点とは?【計画提出は2027年9月30日まで】で解説していますので、あわせてご覧ください。なお、税制は毎年改正されますので、実行にあたっては最新の内容を税理士にご確認ください。

重要なのは、「株価を下げること」自体が目的ではないという点です。株価を下げるだけでは意味がなく、下がったタイミングで確実に後継者へ移転してはじめて対策になります。そして、その両方を計画的に行うには、どうしても数年から10年単位の時間が必要です。

また、財産評価基本通達に基づく評価は、会社の実態によって結論が大きく変わります。とくに持株会社化のように、一歩間違えると逆効果になる手法もありますので、必ず事前にシミュレーションを行ったほうがよろしいかと存じます。

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