事業承継税制(特例措置)の要件・効果・注意点とは?【計画提出は2027年9月30日まで】
会社を経営していると、「そろそろ後継者に会社を渡したいが、自社株にかかる税金がいくらになるのか見当もつかない」と感じる場面が出てくるのではないでしょうか。目先の決算対策としての節税と違い、事業承継は10年単位で効いてくる長期の節税策です。準備を始める時期を誤ると、選べる手段そのものが減ってしまいます。
その中心にあるのが事業承継税制です。うまく使えば、自社株にかかる贈与税・相続税の負担を実質ゼロにできます。ただしこの制度には期限があり、手厚い内容の「特例措置」を使うには、2027年(令和9年)9月30日までに特例承継計画を提出し、2027年(令和9年)12月31日までに贈与・相続を実行する必要があります。
今回は、事業承継税制の内容と要件、実際にどれだけの効果があるのか、そして適用前に必ず確認しておきたい注意点を整理してご紹介します。「後継者は決まっているが、何から手をつければいいか分からない」という方は、この機会に全体像をつかんでおきましょう。
事業承継税制とは——自社株の税金を「猶予」する制度
事業承継税制とは、後継者が先代経営者から非上場会社の株式を贈与または相続で受け取ったときに、その株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予してもらえる制度です。正式には「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例」といい、租税特別措置法第70条の7の5(贈与)および第70条の7の6(相続)に定められています。
なぜこの制度が必要なのでしょうか。業績の良い会社ほど、毎年の利益が内部留保として積み上がり、自社株の評価額は経営者本人が思っている以上に高くなっていることが多いためです。
しかも自社株は、売って現金化することが事実上できません。買い手がいないうえ、売ってしまえば会社の支配権を失います。つまり後継者は、換金できない財産に対して多額の税金を現金で払わなければならない、という状況に追い込まれます。この矛盾を解消するために設けられたのが事業承継税制です。
制度の効果を、具体的な数字で見てみましょう。父(65歳)から長男(35歳)へ、評価額3億円の自社株を一括で贈与するケースです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 自社株の評価額 | 3億円 |
| 制度を使わない場合の贈与税(暦年課税・特例税率) | 約1億5,800万円 |
| 事業承継税制(特例措置)を使った場合 | 0円 |
贈与税額は、(3億円-基礎控除110万円)×55%-640万円で約1億5,800万円となります(相続税法第21条の5・第21条の7、租税特別措置法第70条の2の5)。この金額を後継者が自分の預金から払えるかというと、ほとんどの場合、答えは「ノー」かと思います。私も実務上、事業承継のご相談は納税資金の話から入ることがほとんどです。だからこそ、この制度は検討する価値があります。
特例措置には2つの期限があります
事業承継税制には、平成30年度税制改正で創設された10年間限定の「特例措置」と、期限のない「一般措置」の2つがあります。中身が圧倒的に有利なのは特例措置ですが、こちらには次の2つの期限があります。
| やること | 期限 | 提出先 |
|---|---|---|
| ①特例承継計画の提出 | 2027年(令和9年)9月30日まで | 都道府県庁 |
| ②贈与・相続の実行 | 2027年(令和9年)12月31日まで | ― |
ここで押さえていただきたいのが、①の計画提出期限は令和8年度税制改正で1年6か月延長されましたが、②の承継そのものの期限は延長されていないという点です。租税特別措置法第70条の7の5第1項は、特例の対象となる贈与を「平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日までの間の最初の……贈与」と定めており、相続についても第70条の7の6第1項で同じ期限が定められています。
つまり、計画を出せる期間は延びたものの、実際に株式を渡し終えるタイムリミットは2027年12月31日のままということです。計画提出から承継実行まで、わずか3か月しかありません。逆算すると、今から動き始めても決して早すぎることはないのが実情です。
なお、国税庁のタックスアンサー等では計画提出期限が「令和8年3月31日」と記載されている場合がありますが、これは令和7年4月1日現在の法令に基づく記載です。最新の期限は、中小企業庁が公表している令和9年9月30日となります。
特例措置と一般措置は何が違うのか
両者の違いを一覧にすると、特例措置の有利さがはっきりします。
| 比較項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前の計画提出 | 必要(令和9年9月30日まで) | 不要 |
| 適用期限 | 令和9年12月31日までの贈与・相続 | なし(恒久措置) |
| 対象となる株式数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 贈与・相続とも100% | 贈与100%・相続80% |
| 承継のパターン | 複数の株主から最大3人の後継者へ | 複数の株主から1人の後継者へ |
| 雇用確保要件(8割維持) | 満たせなくても猶予は継続(理由の報告は必要) | 承継後5年間平均で8割の維持が必要 |
| 事業継続が困難になった場合 | 譲渡対価等で猶予税額を再計算し、差額を免除 | 猶予税額を全額納付 |
とくに大きいのが、納税猶予割合と雇用確保要件の2点です。
一般措置の場合、相続では対象となる株式が総株式数の3分の2までで、しかもその80%しか猶予されません(租税特別措置法第70条の7の2第1項・第2項第5号)。単純計算しますと、自社株にかかる相続税の約47%は自己資金で払う必要があるということです。これに対し特例措置では、全株式について100%が猶予されます。
雇用確保要件についても差があります。特例措置では、雇用8割を下回ったことが納税猶予の打ち切り事由から除外されています。租税特別措置法第70条の7の5第3項が、打ち切り事由を定めた第70条の7第3項を準用する際に「第二号を除く。」としているためです。従業員数が8割を下回っても、理由を記載した報告書を都道府県に提出すれば猶予は続きます。人手不足の今、これは実務上とても大きな安心材料となります。
適用を受けるための要件
事業承継税制の要件は、「会社」「先代経営者」「後継者」の3つに分かれます。順に確認していきましょう。
会社の要件——資産保有型会社に該当しないことが最大の関門です
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 中小企業者であること | 経営承継円滑化法上の中小企業者に該当すること |
| 従業員が1人以上いること | 常時使用する従業員が1人以上 |
| 資産保有型会社・資産運用型会社でないこと | 特定資産が総資産の70%以上、または特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上の会社は原則として対象外 |
| 非上場会社であること | 上場株式は対象外 |
| 風俗営業会社でないこと | 会社および特定特別関係会社が風俗営業会社でないこと |
会社側の要件は、租税特別措置法第70条の7の5第2項第1号に定められています。実務上いちばんの関門は、資産保有型会社・資産運用型会社の判定です。同法第70条の7第2項第8号・第9号に定義があり、現預金・有価証券・遊休不動産などの「特定資産」が総資産の70%以上を占めると資産保有型会社に該当します。判定にあたっては、過去5年間に後継者やその同族関係者が受けた配当等も加算される点に注意が必要です。
ポイント:本業が堅調でも、社長個人への貸付金や遊休不動産、生命保険の解約返戻金などが積み上がっていますと、この判定に引っかかるおそれがあります。まずは自社が該当しないかを確認するところから始めましょう。
先代経営者の要件——贈与の時点で代表を退いていることが必要です
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 代表者であったこと | 過去に会社の代表権を有していたこと |
| 同族で議決権の過半数 | 贈与の直前に本人と同族関係者で総議決権の50%超 |
| 同族内で筆頭株主 | 後継者を除く同族関係者の中で筆頭の議決権数 |
| 贈与時に代表権を持たないこと | 贈与の時点で代表を退任(役員として残るのは可) |
先代経営者の要件は、租税特別措置法施行令第40条の8の5第1項に定められています。この中でハードルになりやすいのが、最後の「代表権を持たないこと」です。制度を使うということは、経営の実権を後継者に渡すことが前提になっていると理解しておく必要があります。
後継者の要件——「3年以上の役員経験」から逆算しましょう
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 贈与の日において18歳以上 |
| 役員経験 | 贈与の直前に引き続き3年以上役員 |
| 代表権 | 贈与の時に会社の代表権を有すること |
| 議決権(同族全体) | 後継者と同族関係者で総議決権の50%超 |
| 議決権(後継者個人) | 1人なら同族内で筆頭、2〜3人なら各人10%以上かつ同族内で筆頭 |
後継者の要件は、租税特別措置法第70条の7の5第2項第6号に定められています。ここで逆算が必要になるのが「役員3年以上」の要件です。息子さんや娘さんがまだ役員になっていないのであれば、今すぐ役員に就任していただかないと、2027年12月31日の期限に間に合いません。これが、今から動く必要があると申し上げる最大の理由です。
手続きの流れと、承継後に続く報告義務
この制度は「申告して終わり」ではありません。承継した後も長く続く手続きがあります。全体像は次のとおりです。
| 手続き | 提出先・時期 |
|---|---|
| 特例承継計画の提出 | 都道府県庁/令和9年9月30日まで |
| 株式の贈与・相続の実行 | 令和9年12月31日まで |
| 都道府県知事の認定申請 | 都道府県庁 |
| 贈与税・相続税の申告と担保の提供 | 税務署/申告期限まで |
| 年次報告書・継続届出書の提出 | 都道府県庁・税務署/承継後5年間、毎年1回 |
| 継続届出書の提出 | 税務署/6年目以降、3年に1回 |
特例承継計画には、認定経営革新等支援機関(税理士・公認会計士・商工会議所・金融機関など)の指導および助言を受けた旨を記載する必要があります。担保については、対象となる非上場株式のすべてを提供すれば、その価額が猶予税額に満たない場合でも担保の提供があったものとみなされます(租税特別措置法第70条の7第6項)。一方で、年次報告書や継続届出書の提出が1回でも漏れますと納税猶予は打ち切られます。承継して終わりではなく、毎年の管理体制まで含めて設計しておく必要があります。
見落とされがちな注意点
メリットの大きい制度ですが、実務では次のような点が問題になります。適用を決める前に、必ずご確認ください。
①「免除」ではなく「猶予」です
最も誤解が多い点です。この制度は税金が消えるわけではなく、後継者が亡くなるまで納税が先送りされている状態にすぎません。免除されるのは、後継者が死亡した場合や、次の後継者へさらに贈与して制度を引き継いだ場合などに限られます。裏を返せば、次の世代でも同じ制度を使い続ける前提の設計になっているということです。
この猶予の状態を保つために、後継者には長期の縛りがかかります。まず、贈与税の申告期限の翌日から5年間(経営贈与承継期間)は代表者として経営を続ける必要があり、この間に代表権を失いますと納税猶予は打ち切られます。もっとも、5年を過ぎれば代表を退いても猶予は続きます。5年経過後の取消事由を定めた租税特別措置法第70条の7第5項には、代表権を失った場合が含まれていないためです。ただし株式は持ち続ける必要があり、譲渡すればその分だけ猶予が打ち切られます。「経営は5年、株式の保有は生涯」というのが実像です。
ポイント:「孫の代までこの会社を続ける」という覚悟があるかどうかが、適用するかどうかの分かれ目になります。
②株価対策との順番を間違えないようにします
納税猶予はあくまで猶予である以上、猶予される税額そのものを小さくしておくことには依然として意味があります。役員退職金の支給などによって株価を引き下げたうえで承継すれば、将来の取消しリスクに備えた保険にもなります。株価対策を先に、事業承継税制を後に、という順番が基本となります。自社株の評価がどのように決まり、どう引き下げるのかについては、自社株評価はこう決まる|中小企業経営者が今から始める株価の下げ方と相続対策で詳しく解説しています。
③相続時精算課税との併用を検討します
贈与でこの制度を使う場合、相続時精算課税を併せて選択できます(租税特別措置法第70条の2の8)。相続時精算課税とは、贈与時にいったん軽く課税し、相続のときに相続税で精算する仕組みで、税率は一律20%です(相続税法第21条の13)。
仮に将来納税猶予が取り消されたとしても、暦年課税の最高55%ではなく20%で計算されるため、万一のときの保険になります。実務上、併用はほぼ必須の検討事項となります。
④取消しになると本税と利子税を一括で納付します
要件を満たさなくなりますと納税猶予は打ち切られ、猶予されていた税金を利子税とあわせて2か月以内に納付しなければなりません。利子税の割合は年3.6%とされていますが、市中金利の水準に応じて引き下げる特例があります(租税特別措置法第70条の7第27項、第93条第5項)。
承継後5年以内の主な取消事由は、租税特別措置法第70条の7第3項に定められた次のような場合です。
- 後継者が会社の代表権を失ったとき
- 後継者と同族関係者の議決権が50%以下になったとき
- 同族関係者のいずれかの議決権数が後継者を上回ったとき
- 後継者が対象株式を一部でも譲渡・贈与したとき
- 会社が資産保有型会社・資産運用型会社に該当することとなったとき
- 会社の事業年度の総収入金額がゼロになったとき
- 会社が解散したとき、上場したとき
- 会社が資本金・準備金の額を減少させたとき(一定の場合を除きます)
ポイント:とくに資産保有型会社への該当は、承継後に本業が縮小して手元資金や不動産の比重が高まった場合に起こり得ます。承継後も毎年モニタリングし続ける必要があります。
⑤その他の留意点
- 遺留分への配慮:自社株を後継者1人に集中させますと、他のご兄弟の遺留分をめぐる争いの火種になります。経営承継円滑化法には、推定相続人全員の書面による合意を前提に、自社株を遺留分の計算から外す「除外合意」と、株価を合意時点の価額で固定する「固定合意」が用意されています(同法第4条第1項)。経済産業大臣の確認(同法第7条)と家庭裁判所の許可(同法第8条)が必要です。
- 直前の資産移動:後継者やその同族関係者から贈与の前3年以内に現物出資・贈与で会社に移した資産が、会社の総資産の70%以上を占める場合、この制度は適用できません(租税特別措置法第70条の7第29項)。駆け込みの資産移動は、かえって適用を失わせるおそれがあります。
まとめ:事業承継税制を検討するときの判断軸
事業承継税制は、中小企業経営者にとって最も金額インパクトの大きい長期の節税策です。一方で要件が細かく、承継後も長く続く義務があるため、適用するかどうかの判断そのものが重要になります。判断のポイントは、自社株の評価額が納税資金に対して過大かどうか、後継者が長期に経営を続ける意思があるかどうか、そして資産保有型会社に該当しないかどうかの3点です。
逆に、自社株の評価額がそれほど高くない会社であれば、暦年贈与など、より身軽な方法で足りることも少なくありません。「使えるから使う」ではなく「自社にとって必要だから使う」という判断が大切になります。
「自社株がいくらになっているのか分からない」「後継者はいるが、何から手をつければいいのか」——そうした段階からで構いません。まずは自社株の評価と、資産保有型会社に該当しないかの確認から始めましょう。期限のある制度である以上、検討を始めるタイミングが早いほど、選べる手段は多くなります。
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※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいて作成しています。事業承継税制は改正が続いている分野です。実際の適用にあたっては、最新の取扱いをご確認ください。