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役員報酬と配当、結局どちらが得?中小企業経営者のための税金・社会保険料の考え方

役員報酬と配当、結局どちらが得?中小企業経営者のための税金・社会保険料の考え方

「自分の取り分は役員報酬でもらうもの」——多くの経営者がそう考えていますが、実は配当をうまく組み合わせることで、手取りが増えるケースがあることをご存知でしょうか。この記事では、役員報酬と配当それぞれの税負担・社会保険料負担の違いと、判断のポイントを解説します。

そもそも役員報酬と配当は何が違うのか

役員報酬と配当では、法人・個人にかかる負担の種類がまったく異なります。

役員報酬配当
法人税への影響損金算入できる(利益を圧縮、法人税法34条)損金算入できない
支払う原資税引前の利益から支払う法人税を払った後の利益から支払う
社会保険料かかる(労使合わせて概ね30%前後)かからない
個人の税金給与所得として課税(給与所得控除あり、所得税法28条)配当所得として課税(配当控除あり、所得税法92条)

ポイントは2つあります。ひとつは、役員報酬には社会保険料がかかるが、配当にはかからないという点。もうひとつは、配当は法人税を払った後の利益からしか出せないという点です。この2つは有利・不利が逆方向に働くため、どちらを選ぶべきかは会社の利益水準によって答えが変わります

数値例で見る「割合による違い」

言葉だけではイメージがつきにくいため、簡単なモデルケースで比較してみましょう。

前提条件:中小法人の利益(役員報酬・配当・税金を考慮する前)が800万円。このうち経営者への役員報酬・配当の原資を600万円、内部留保の原資(税金考慮前)を200万円とした場合

(利益800万円の内訳)
役員報酬法人税等・社保配当内部留保会社負担(税金+社保)個人負担(税金+社保)合計負担手取り合計
0万円196万円453万円151万円196万円106万円302万円347万円
106万円182万円361万円151万円182万円41万円223万円426万円
200万円169万円280万円151万円169万円56万円225万円424万円
300万円156万円193万円151万円156万円71万円227万円422万円
400万円144万円105万円151万円144万円91万円235万円414万円
520万円132万円0万円148万円132万円117万円249万円403万円

同じ600万円の還元でも、割合次第で手取りに約80万円の差が出ます。最も手取りが大きいのは、役員報酬を約106万円(月8.8万円)に抑えて残りを配当にしたケースで426万円。全額を役員報酬にした場合(最終行)の403万円と比べて約23万円多く、役員報酬をゼロにした場合の347万円と比べると約79万円の差です。

注目したいのは、役員報酬をゼロにして配当だけにすれば一番得、というわけではないという点です。理由は次の2つの章で説明します。

なぜ「配当を混ぜる」と有利になるのか

この利益水準で配当が効くのは、次の3つが重なるためです。

  • 社会保険料が配当にはかからない:保険料は標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を乗じて計算されるため(厚生年金保険法81条3項)、役員報酬にのみ発生します。労使合計で約30%と負担は小さくありません。
  • 法人税の軽減税率が使える:中小法人は所得800万円以下の部分について軽減税率が適用されます(法人税法66条2項、租税特別措置法42条の3の2により15%)。地方税を含めた実効税率でも約23%で、社会保険料と所得税・住民税を合わせた負担より軽くなります。
  • 配当控除がある:課税総所得金額が1,000万円以下の場合、配当所得の10%が所得税額から直接控除されます(所得税法92条1項1号イ)。住民税でも2.8%が控除されます。法人税と所得税の二重課税を調整する仕組みで、これを見落とすと配当の負担を大きく見誤ります。

「役員報酬ゼロ」が一番損になる理由

役員報酬をゼロにすると、健康保険・厚生年金の被保険者になれず、国民健康保険と国民年金に移ります。国民健康保険料は配当所得も算定の基礎に含まれるため、上のモデルケースでは年間約100万円の負担が発生します。社会保険料がゼロになるどころか、かえって重くなるのです。

さらに、厚生年金の報酬比例部分が積み上がらず将来の年金額が減るほか、傷病手当金や出産手当金も受けられなくなります。

そのため、この利益水準では役員報酬をゼロにするのではなく、厚生年金の標準報酬月額の下限(88,000円=年約106万円)に合わせるのがバランス点になります。

利益水準によって有利・不利は逆転する

有利な組み合わせは、会社の利益水準によって配当中心から役員報酬中心へ移っていきます。利益(役員報酬・配当を考慮する前)ごとに、経営者の手取りが最も大きくなる配分を計算すると次のようになります。

経営者の手取りが最も大きくなる役員報酬と配当の目安額
利益(役員報酬・配当考慮前)役員報酬設定額配当設定額経営者の手取り額①(参考)全額を役員報酬にした場合の手取り②差額(①-②)
600万円106万円362万円427万円403万円+24万円
800万円106万円512万円561万円524万円+37万円
1,000万円145万円625万円681万円643万円+38万円
1,500万円607万円604万円962万円940万円+22万円
1,900万円969万円604万円1,146万円1,145万円+1万円
2,000万円1,829万円0万円1,201万円1,201万円±0万円
2,500万円2,329万円0万円1,475万円1,475万円±0万円

利益600万円の時点では、役員報酬106万円に対して配当362万円と配当が中心です。それが利益の増加につれて役員報酬の比重が上がっていき、1,900万円を超えたところで配当のメリットが完全に消えます

なぜ1,900万円で役員報酬が有利になるのか

表をよく見ると、配当が604万円で頭打ちになっていることに気づきます。ここに答えがあります。理由は3つです。

  1. 配当に回せる額には上限がある:最も有利な配分では、法人の所得をちょうど800万円に着地させています。これが法人税の軽減税率の上限(租税特別措置法42条の3の2)で、超えると税率が15%から23.2%に跳ね上がるためです。所得800万円の税引後が約604万円。これが「配当に回せる実質的な上限」になります。
  2. 配当が役員報酬の税率を押し上げる:配当604万円は個人の課税所得に上乗せされる土台になるため、役員報酬の部分がより早く高い税率帯(33%、40%)に入ります。利益が増えるほど、この押し上げの影響が大きくなります。
  3. 配当控除が半分になる:課税総所得金額が1,000万円を超えると、超える部分の配当控除は所得税10%から5%、住民税2.8%から1.4%へと半減します(所得税法92条1項3号イ)。利益1,800万円あたりでこのラインを超え、配当控除額が約60万円から約55万円に減ります。

一方で役員報酬の側は、社会保険料の計算のもとになる標準報酬月額に上限があり、厚生年金は月65万円(年780万円)、健康保険は月139万円(年1,668万円)で頭打ちになります(厚生年金保険法20条、健康保険法40条)。役員報酬をそれ以上増やしても社会保険料はほとんど増えません。

つまり、「配当のメリットが減衰していく」動きと「役員報酬の社会保険料が頭打ちになる」動きが交差する点が、およそ1,900万円ということです。実際、差額は1,900万円で1万円まで縮まり、それを超えると全額を役員報酬にしたほうが有利になります。

なお、厚生年金の標準報酬月額の上限は2027年9月から段階的に引き上げられる予定です。実施後は役員報酬側の負担が増えるため、この分岐点は今より上に移動する見込みです。

まとめ

利益水準ごとの考え方を整理すると、次のようになります。

利益(役員報酬・配当考慮前)有利な組み合わせ方
〜1,000万円役員報酬は社会保険の下限あたりに抑え、残りを配当に回す
1,000万〜1,900万円併用する。法人の所得800万円を目安に配当をつくり、残りを役員報酬に
1,900万円〜ほぼ全額を役員報酬にする

ただし、これはあくまで税金と社会保険料だけを見た場合の話です。将来の年金額、金融機関からの評価、退職金の設計、株主構成などを含めて考えると、答えが変わることも少なくありません。特に、役員報酬は将来の役員退職金の算定基礎(最終報酬月額)にもなるため、目先の手取りだけで決めると長期的に不利になる場合があります。

役員報酬と配当、どちらが有利かは「いくら会社に利益が出ているか」「経営者お一人の状況」によって答えが変わる、非常に個別性の高いテーマです。目安となる考え方はご紹介しましたが、実際の最適なバランスを求めるには、利益シミュレーションと社会保険料・税金の精密な試算が欠かせません。

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※本記事の試算は、資本金1億円以下の中小法人、東京23区、役員は経営者お一人、40歳以上65歳未満、扶養親族なし、協会けんぽ加入、賞与なしの月額均等支給を前提とした概算です。