役員報酬と配当、結局どちらが得?中小企業経営者のための税金・社会保険料の考え方
「自分の取り分は役員報酬でもらうもの」——多くの経営者がそう考えていますが、実は配当をうまく組み合わせることで、手取りが増えるケースがあることをご存知でしょうか。この記事では、役員報酬と配当それぞれの税負担・社会保険料負担の違いと、判断のポイントを解説します。
そもそも役員報酬と配当は何が違うのか
役員報酬と配当では、法人・個人にかかる負担の種類がまったく異なります。
| 役員報酬 | 配当 | |
|---|---|---|
| 法人税への影響 | 損金算入できる(利益を圧縮) | 損金算入できない |
| 社会保険料 | かかる(労使合わせて概ね30%前後) | かからない |
| 個人の税金 | 給与所得として課税(給与所得控除あり、所得税法28条) | 配当所得として課税(配当控除あり、所得税法92条) |
ポイントは、役員報酬には社会保険料がかかるが、配当にはかからないという点です。社会保険料の負担は決して小さくなく、この違いが手取りに大きく影響します。
数値例で見る「割合による違い」
言葉だけではイメージがつきにくいため、簡単なモデルケースで比較してみましょう。
前提条件:中小法人の利益(役員報酬・配当を考慮前)が800万円で、経営者への役員報酬・配当総額を600万円、内部留保を200万円であった場合
| 役員報酬 | 配当 | 社会保険料負担額(会社・個人合計) | 所得税・住民税の負担額(会社・個人合計) | 経営者の手取り(役員報酬・配当合計) |
|---|---|---|---|---|
| 600万円 | 0万円 | 約150万円 | 約30万円 | 約420万円 |
| 400万円 | 200万円 | 約100万円 | 約40万円 | 約460万円 |
| 200万円 | 400万円 | 約50万円 | 約110万円 | 約440万円 |
| 0万円 | 600万円 | 0万円 | 約190万円 | 約410万円 |
同じ600万円の還元でも、割合次第で手取りに40万円以上の差が出ることがあります。注目したいのは、役員報酬をゼロにして配当だけにすれば一番得というわけではないという点です。社会保険料を抑えつつ、給与所得控除や法人税への影響もあわせて考えると、多くの場合「ちょうど良いバランス」がどこかに存在します。
※執筆当時の税制、社会保険料の水準を踏まえた概算となります。実際の負担額は法人の所在地・利益水準・所得控除・加入している社会保険等によって変わるため、詳細はお問合せください。
どのような会社が役員報酬と配当の有利・不利を検討すべきか?
全ての会社が役員報酬と配当の水準のシミュレーションが必要というわけではなく、以下に当てはまる会社様がご検討いただくのがよろしいかと思います。「社会保険料がかからないから」という理由だけで安易に配当中心に切り替えると、思わぬ落とし穴にはまることもあります。バランス設計は、税負担だけでなく、こうしたリスクも踏まえて検討しましょう。
【利益水準】
一般的には、会社の利益が800万円前後までは、法人税の軽減税率(租税特別措置法42条の3の2)が使える範囲のため、配当を適切に組み合わせたほうが全体としての負担は下がりやすくなります。一方で、利益が2,000万円、3,000万円と大きくなってくると、社会保険料には上限があるため、役員報酬を増やしても負担額は増えにくくなり、配当より役員報酬の割合を増やした方が手取り額は増えやすくなります。つまり、有利な組み合わせ方は、会社の利益水準によって逆転し得るため、足元の利益水準を基にご検討ください。なお、実際にどのあたりが分岐点になるかは会社ごとの状況によって変わるため、目安として捉えていただければと思います。
【銀行借り入れ等の有無】
銀行借り入れの審査においては財務諸表の健全性、具体的には一定程度の内部留保や適切な利益・経費の水準を維持することが必要となります。役員報酬を大きく減らして配当中心にすると、決算書上の利益水準や自己資本の見え方が変わり、金融機関からの評価に影響することがあります。また、個人の面でも、役員報酬を減らす場合は将来受け取る厚生年金額が減る、住宅ローン等の審査で配当収入を給与ほど適切に評価してもらえない場合があります。そのため、今後、法人・個人いずれかで金融機関との取引(借入・住宅ローン等)を想定される場合には、慎重に判断することが重要となります。
【内部留保が一定程度あるか】
会社法の要件で、株式会社では配当を行うには純資産300万円以上が必要であり(会社法458条)、かつ一定の場合には配当額の10分の1を準備金として積み立てることが義務付けられています(会社法445条4項)。内部留保が薄い状態で配当を優先すると、法律上配当自体ができない、または今後の資金繰りを圧迫するおそれがあります。加えて、翌期以降の設備投資や仕入規模の拡大など、事業の先行きの見立てを踏まえたうえで、どの程度を社内に残し、どの程度を還元に回すかを検討する必要があります。
まとめ
役員報酬と配当、どちらが有利かは「いくら会社に利益が出ているか」「経営者お一人の状況」によって答えが変わる、非常に個別性の高いテーマです。目安となる考え方はご紹介しましたが、実際の最適なバランスを求めるには、利益シミュレーションと社会保険料・税金の精密な試算が欠かせません。
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