知っておきたい相続税の基本
国税庁「相続税の申告事績の概要」によれば、相続税の課税割合(亡くなった方のうち相続税の課税対象となった方の割合)は年々上昇しており、令和6年分では10.4%と、亡くなった方のおよそ10人に1人が相続税の課税対象となっています。
今回は、もはや他人事とは言えない(?)相続税の基本的な内容について解説します。相続はいつか誰にでも関わることですので、この機会に基本を押さえておきましょう!
相続税の申告期限と納付方法
相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に済ませる必要があります(相続税法第27条・第33条)。
分割協議がまとまらず期限に間に合わない場合は、いったん法定相続分どおりに申告する「未分割申告」(相続税法第55条)という方法があり、申告期限後3年以内に分割が確定すれば特例を改めて適用し還付を受けられます。
相続税の納付は、現金による一括納付が原則です。現金一括納付が難しい場合は、担保を提供したうえで分割払いとする「延納」(同法第38条)を、それも難しい場合は不動産等の財産で納める「物納」(同法第41条)を申請できます。
相続税額の計算は4つのステップ
相続税を理解するには、まず税額を計算する流れをつかむことが第一歩です。大まかに次の4つのステップで進みます。
- ①課税遺産総額の算出
- ②法定相続分による按分
- ③相続税の総額の計算
- ④各人の納税額の算出
それぞれの内容を、以下で順番に見ていきましょう。
債務控除
①課税遺産総額の算出(課税対象になる財産・ならない財産に注意!)
相続税の対象となる財産は、現金・預貯金・不動産・有価証券などの「プラスの財産」から、借入金・未払いの税金といった債務や葬式費用などの「マイナスの財産」(債務控除、相続税法第13条)を差し引いた金額が基礎となります。
なお、被相続人の生前の「プラスの財産」ではないものの、亡くなったことをきっかけに受け取る生命保険金や退職手当金なども「みなし相続財産」として課税対象に加算されます。
さらに、相続開始前一定期間内に受けた生前贈与は、課税価格に加算(持ち戻し)されます(相続税法第19条)。この加算期間は従来「3年以内」でしたが、税制改正により2024年1月以降の贈与から段階的に延長され、最終的に「7年以内」となります(延長された4年分は合計100万円まで加算対象外)。
一方、お墓や仏壇といった祭祀財産、国等への寄付財産は非課税のため、対象となりません(相続税法第12条)。
| 区分 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 課税対象になる財産 | プラスの財産(現金・預貯金・不動産・有価証券等)/みなし相続財産(生命保険金・退職手当金等)/相続開始前7年以内(段階的に延長中)の生前贈与財産 |
| 課税対象にならない財産(非課税財産) | お墓・仏壇等の祭祀財産/国等への寄付財産/生命保険金・退職手当金のうち非課税枠(500万円×法定相続人の数)内の金額 |
| 遺産総額から差し引けるマイナスの財産(債務控除) | 被相続人の借入金・未払いの税金等の債務/葬式費用 |
ここからさらに「基礎控除」を差し引きます(相続税法第15条)。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。遺産総額がこれ以下であれば、相続税の申告・納税は不要です。
なお、相続放棄をした人がいても、法定相続人の数は減りません(相続税法第15条第2項)。また、養子は実子がいれば1人まで、いなければ2人までしか法定相続人の数に算入できません(同項各号)。ここまでの財産・控除を集計したものが、①のステップである「課税遺産総額」です。
②法定相続分による按分(誰が相続税を納めるのか)
相続税は、被相続人(亡くなった方)から財産を取得した人が納めるため、法定相続人だけでなく、遺言で財産を受け取った受遺者も納付義務の対象となります。一方、相続税の計算上では、実際の遺産分割の割合にかかわらず、法定相続人が法定相続分に従って財産を取得したものといったん仮定し、①で算出した課税遺産総額を按分計算します。
法定相続人の順位は民法で決まっており、配偶者は常に相続人、それ以外は「①子」「②直系尊属(父母・祖父母)」「③兄弟姉妹」の順で、上位の人がいれば下位の人は相続人になりません。それぞれの取得割合の目安となる「法定相続分」は、民法第900条で次のとおり定められています。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者 | その他の相続人 |
|---|---|---|
| 配偶者と子 | 1/2 | 子:1/2(人数で均等按分) |
| 配偶者と直系尊属(父母等) | 2/3 | 直系尊属:1/3(人数で均等按分) |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹:1/4(人数で均等按分) |
③相続税の総額の計算(相続税の税率)
②で按分した金額に税率を当てはめます。相続税は超過累進税率が採用されており、取得する金額が大きいほど税率も高くなります(相続税法第16条)。国税庁が公表している速算表は以下のとおりです。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
各相続人の按分した金額に上記の税率を適用して算出した税額を合計したものが「相続税の総額」です。簡単な数値例は以下のとおりです。
【計算例】遺産総額1億5,000万円、相続人が配偶者と子2人(合計3人)の場合
- 課税遺産総額:1億5,000万円-基礎控除4,800万円=1億200万円
- 配偶者(法定相続分1/2=5,100万円):30%-700万円=830万円
- 子1人あたり(法定相続分1/4=2,550万円):15%-50万円=332.5万円(2人で665万円)
- 相続税の総額:830万円+665万円=1,495万円
④各人の納税額の算出(実際の取得割合で按分)
③で算出した「相続税の総額」を、実際の遺産取得割合に応じて振り分けたものが、各人の納税額です。相続税額の計算は複雑になりやすいため、正確な金額を知りたい場合は税理士に相談することをおすすめします。
相続税の主な特例
相続税には、要件を満たせば税負担を軽減できる特例がある一方、逆に税額が増える制度もあります。ここでは、とくに知っておきたい4つのポイントをご紹介します。
【小規模宅地等の特例】
被相続人が住んでいた自宅の土地や、事業に使っていた土地について、一定の要件を満たす相続人が取得する場合、自宅の土地評価額を圧縮できる特例です(租税特別措置法第69条の4)。計算ステップの①の課税遺産総額の算出において、土地評価額を最大80%減額できます。
たとえば自宅の土地の評価額が5,000万円でも、特定居住用宅地等として適用できれば、課税価格に算入される金額は1,000万円(5,000万円×(1-80%))まで圧縮されます。都市部に自宅をお持ちの方ほど、影響の大きい特例です。
なお、誰が土地を取得するか(配偶者か、同居していた親族か、別居の親族か等)によって要件が細かく分かれているため、配偶者以外の親族が取得する場合は、同居の有無や保有継続要件を満たす必要があり、事前の確認が重要です。
| 宅地の区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅の土地) | 330㎡まで | 80% |
| 特定事業用宅地等(事業用の土地) | 400㎡まで | 80% |
| 貸付事業用宅地等(賃貸アパート等の土地) | 200㎡まで | 50% |
【生命保険金の非課税枠】
法定相続人を受取人とする生命保険金があった場合、次の金額までは相続税がかかりません(相続税法第12条第1項第6号)。
生命保険金の非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
計算ステップの①の課税遺産総額の算出において、生命保険金は「みなし相続財産」として課税対象に集計されますが、上記の非課税限度額分が減額されます。
たとえば、夫、妻、子2人の家族で、夫が妻と友人にそれぞれ1,000万円を渡す生命保険に加入していたケースを考えてみましょう。法定相続人(妻・子2人の3人)が受け取った保険金の合計額は妻の1,000万円のみであり、非課税限度額の1,500万円(500万円×3人)以下であるため、妻の受取額1,000万円は全額が非課税となります(基礎控除や後述の配偶者の税額軽減を適用するまでもありません)。
なお、この非課税枠は、法定相続人が受け取った保険金にのみ適用されます(上記の例では、法定相続人ではない友人の受取額1,000万円には非課税枠は使えず、全額が課税対象となります)。また、相続放棄をした人が受け取る保険金には使えませんので、注意が必要です。
【配偶者の税額軽減】
配偶者が相続や遺贈で取得した財産は、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで、相続税がかかりません(相続税法第19条の2)。計算ステップの④の各人の納税額の算出において、配偶者が取得した財産のうちこの金額までの部分に対応する税額が軽減されます。
この特例を使うためには、たとえ納税額が0円になる場合でも、相続税の申告書を提出することが必須なので、注意しましょう。
また、配偶者に財産を寄せすぎると、配偶者が亡くなった際の「二次相続」でかえって相続税の総額が増えるケースが多いため、一次相続・二次相続を通したトータルでの試算シミュレーションをおすすめします。
【相続税額の2割加算(2割特例)】
相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人の配偶者および一親等の血族(子や父母)以外の人である場合、算出した相続税額にその20%相当額が加算されます(相続税法第18条)。計算ステップの④の各人の納税額の算出において、対象者の算出税額に2割相当額を加算したうえで、納付税額を確定させます。
たとえば、上記の生命保険金の例に登場した友人のように、相続人でも配偶者でもない人が遺贈で財産を取得した場合や、兄弟姉妹が相続人となる場合は、この2割加算の対象となります。
なお、本来の相続人である子が健在のまま孫を養子にする、いわゆる「孫養子」による対策も、この2割加算の対象になります(相続税法第18条第2項)。ただし、子が被相続人より先に死亡している等の事情で孫が代襲相続人となっている場合は対象外です。相続対策で養子縁組を検討する際は、この点に注意が必要です。